解説
ヘミングウェイの『老人と海』を映画化することについて
ヘミングウェイはアメリカでは特別な小説家です。僕は中学生の頃に『老人と海』を読みましたが、ただただ老人が毎日海に出て、なかなか魚が釣れないという、その何の変哲もない実話だけで小説を書いてしまうのだから、すごい小説家だと感心したのを覚えています。アジア版『老人と海』の映画化の話を聞いた時、この小説のドキュメンタリー映画を作ると言っても、普通のドキュメンタリーでは成り立たないんじゃないかと思いました。『老人と海』と似たような質の映画を作りたかったので、ナレーションは使わず、解説じみたインタビューもほとんどせずに、「ある漁師の日常を追っていく中でドラマを見つけていく」という方針で撮影をスタートしました。
与那国島の風習や文化を本編に入れた意図は何ですか?
毎日の日常の中でじいちゃんは生きているわけで、その日常には、ハーリー祭や
20年経った今、この映画を再び公開することについて
今はもう、サバニを使った昔ながらの漁法をする人はいません。当時もじいちゃん以外はいなかった。20年経って変わらないこともあるけど、都会に住んでいる僕たちは、自然と共に生きるということをだんだん忘れてきているか、もしくは経験がなくてわからないんですよね。だから、僕がこの映画を撮れて本当に良かったと思うのは、それを与那国島で経験できたことです。何が大事かということと、何もないようなところでも幸せに生きられるということ。
サバニは不思議な舟で、小さくて脆く、危なく見えるんだけど、波乗りにはとても良いんですよね。漁をするには苦労するんだけどある意味ではとても合っていて、カジキが糸に掛かるとまず引っ張られるから、船の方向をすぐに変えなきゃいけないんだけど、サバニはそれが自在にできます。
カジキが大きい船を引っ張ろうとしても無理だから、漁師に負担がかかるんです。そういうことを比喩的に考えると、近代の生活の中で僕たちはみんな大きい船に乗っていて、大きい船を動かすには燃料も使うし、複雑なことも沢山ある。小さい舟でシンプルな生活をすると、もっと簡単に楽に生きることができるんだってことだと思います。